みなさんは食事中にときどき、“むせる”ことはありませんか?勢いよく咳き込んだりしているうちになんとか落ち着くことがほとんどなので、あまり深刻には思っていないかもしれません。でも、万が一「のど仏(咽頭)」に詰まったり、「気管」や「肺」に入ったら、生命維持に関わるくらいの重大事になることも。
そんなことにならないように、食事をするときには、のどの筋肉を十分に動かして、きちんと飲み込むことが重要です。
今回は、1万人以上を治療してきたのどの名医であり、30万部を突破したベストセラー書籍『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』(飛鳥新社)の著者である西山耕一郎先生に、のどとの上手な付き合い方をお聞きしました。
“飲み込みのチャンス”は食道だけが開く「0.5秒」!
そもそも、のどを使って食べ物を「飲み込む」ということは、どのようなメカニズムで行われているのでしょうか? 西山先生は、同書で「口とのどには4つの通路がある」と示しながら説明します。
- 外から食べ物が入ってくる「口の通路(口腔)」
- 鼻とつながっている「鼻の通路(鼻咽腔)」
- 空気が流入する「肺への通路(のど仏)」
- 食べ物が送りこまれる「胃への通路(食道)」
(『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』p.63より)
食べ物を飲み込むときには、上記の4つの通路のうち3つが閉じられ、食道だけが0.5秒ほど通ることが可能になります。つまり、1秒足らずの間に「他の通路が塞がれ、食道へのルートだけが0.5秒開き、そこに食べ物が送り込まれていく」という一連の動きが行われているのです。
若者も他人事ではない「誤嚥問題」
日々の、無意識にしている「飲み込み」の動作。その仕組みをあらためて知ると、とても絶妙な連携で行われていることに気づかされます。同時に、それは少しでもその連携がうまくいかないと、食べ物が気管に入ってしまい、むせたり、咳き込んだりすることにつながることを意味してもいます。
のど仏(喉頭)から気管方向へ侵入した食べ物や飲み物が、声帯よりも奥へ入ってしまうことを、医学的に「誤嚥(ごえん)」といいます。
「誤嚥というと、高齢者の問題と思われがちですが、若い人でも誤嚥することはあります。ただ、若い人の場合は激しく咳き込むことによって侵入物を戻せることも少なくありません。しかし、他の臓器と同様に年齢を経るにつれてのどもいずれは衰えていくもの。いつまでも元気に飲み込め続けられるよう、のどの機能を衰えさせないようにする意識が大切です」(西山先生)
高齢だったり、体力が弱っていたり、手術後などで免疫力が落ちていたりすると、誤嚥物が気管や肺に入って細菌が繁殖し、最悪の場合「誤嚥性肺炎」が引き起こされることもあります。ちなみに、2011年以降肺炎は日本人の死亡原因の第3位となっています。「誤嚥による窒息事故」の年間死者数も増加していることから考えても、誤嚥をめぐるトラブルが深刻化していることがわかります。
あまり気にすることのない「のど仏(喉頭)から気管に入る」ということが、もしかしたら深刻な事態につながることもあるのです。
のどを鍛えることは意外とお手軽!?
いつまでも健康で「飲み込む」ことができるよう、のどを鍛えるために若いうちからできることはあるでしょうか?
「“飲み込む”というのも筋肉運動ですから、普段から有酸素運動などをして筋肉を鍛え、体力をつけておくといいでしょう。中でも推奨したいのはウォーキング、習慣として継続しやすいからです。また、声を発することでのどを使うこともいいでしょう。例えば、カラオケや朗読なんていうのもおすすめです」(西山先生)
ウォーキング、カラオケ、朗読…、どれも簡単にできることばかりです。西山先生に、お手軽にピンポイントでのどを鍛えるトレーニング法を教えていただきました。
嚥下(えんげ)おでこ体操
- おでこに「手根部(手のひらの下の方のでっぱり部分)」を当てる
- 頭の方をおへそをのぞき込むような格好で下方向へ強く力を込める
- 手根部は上方向へ力を込め、頭に負けないようにおでこを押し戻す
- 2と3の押し合っている状態を5秒間キープ、これを5〜10回繰り返す
のどは一生使うものなので、それを鍛えることも日常の中で習慣化したいもの。『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』には、「嚥下おでこ体操」の他にも簡単に取り組めるトレーニングが掲載されているので、気になった方はぜひ読んでみてくださいね。
また、食べるときの姿勢が悪かったり、しゃべりながら食事をすることも誤嚥につながりやすいとのこと。規則正しい生活と適度な運動で体力を維持し、少し意識しながらのどを鍛えてみてはいかがでしょうか。
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■お話を伺った人
西山 耕一郎(にしやま こういちろう)先生
1957年福島県生まれ、横浜育ち。北里大学医学部卒業。医学博士。耳鼻咽喉科・頭頸部外科医師として北里大学病院や国立相模原病院、横浜日赤病院、国立横浜病院などで研鑽を積む。病棟医時代に「術後の誤嚥性肺炎の危険性」を経験したことをきっかけに、嚥下治療を専門分野にして、それらの人命を救おうと決意。30年間で約1万人の嚥下治療患者の診療を行う(耳鼻咽喉科・頭頸部外科としては約30万人を診療)。現在、医療法人西山耳鼻咽喉科医院理事長(横浜市南区)。東海大学客員教授、藤田保健衛生大学客員准教授。
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ライター:皆本類